2025/12/10 08:30

高校卒業後に地元秋田のコーヒー店で修行を始め、バリスタとして東京に就職することを目指し始めました。
店の周辺ではちょうどエリアリノベーションが進み、空き店舗に新しいお店が増え、人の流れが街の端から端へと移り変わっていく。コーヒーを淹れながら、その変化を間近で見ていました。「活動と街がつながる瞬間」を初めて実感したのはこの時期です。 その後、コーヒー店で偶然開催された東北芸術工科大学・馬場先生のトークイベントに参加したことで、北嶋の進路は大きく方向を変えます。
エリアリノベーションをもっと深く学びたいという気持ちが芽生え、大学への進学を決意しました。
コーヒーが本筋だった
初恋のような一杯
北嶋がコーヒーに夢中になった理由を尋ねると、少し照れながらこう話します。
「たぶん、褒めてもらいやすかったからだと思います」父に淹れたコーヒーを喜んでもらったこと、友人に美味しいと言ってもらったこと。誰かの喜びが、そのまま自分の自信になりました。
そして決定的な一杯は、秋田の「08コーヒー」で出会ったエチオピアの浅煎り。
「それまでコーヒーは苦さを我慢して飲む大人の飲み物だと思っていた。でもその一杯はフルーツティーのように華やかで甘酸っぱくて、コーヒーって美味しいと心から思えた初めての体験でした」
今でもエチオピアは「初恋の人みたいな存在です」と振り返ります。
スペシャルティコーヒーに惹かれる理由
Day & Coffeeで扱うのは、土地や気候、生産者ごとの個性がそのまま現れるスペシャルティコーヒーです。農作物としての違いが味わいに反映され、生産者の顔が見える仕組みも整っている。「誰が育てたコーヒーなのかがわかり、美味しく作った分だけ正しく報酬が渡る仕組みもある。僕らも頑張った分報われるという考えに共感しています」
コーヒーの味は「生産 → 焙煎 → 抽出」の3回つくられると言われます。そのすべてが味わいを決めるからこそ、お店ごとの個性が生まれる。

日常に寄り添うということ
Day&Coffeeのコンセプトを見ていると、頻繁に出てくる「日常」という言葉。
「コーヒーは日常の飲み物。いい日にも、悪い日にも、何もない日にもそっと寄り添える存在でいたい」北嶋はそう話します。
10年前、初めて山形を訪れた時、朝の商店街はまだ静かで、少しもったいないと感じた。だからこそ、Day & Coffeeは朝8時半に扉を開きます。「暮らしと街の間にある架け橋」でありたいという思いが、その時間に込められています。
お店を続けてきて思うこと
「自分の好きなことで仕事ができて、しかも感謝までしてもらえる。最高ですね」
6年間の中でも特に印象的だった出来事として、北嶋はこう話します。開店当初から通ってくれていた同世代のお客さんが、コーヒーに夢中になり、ついには東京でバリスタとして働き始めたこと。
「10年前の自分と重なって見えたし、今度は自分が誰かのきっかけになれた。これ以上うれしいことはないです」
明日、もっと美味しく
「昨日より今日、今日より明日、もっと美味しくしたい」北嶋の口から繰り返し出てくる言葉です。
仲間を増やし、次のプレイヤーを育てることで、活動の輪を広げていく。コーヒーバッグやラテベースなど、もっと日常に取り入れやすい形のコーヒーも増やしていく予定です。
「コーヒーは日常に飲むものだからこそ、どこでも美味しいコーヒーが当たり前にある地域をつくりたい」その願いを、明日も一杯のコーヒーから積み重ねていきます。

Interview:遠藤千里
Text & Photo:追沼翼
