2026/10/22 14:10

宮城県仙台市にあるレストランバー「retro Back Page(レトロバックページ)」。1983年に誕生したこのお店では、Day & Coffeeが焙煎したコーヒー豆を、エスプレッソマティーニやアイリッシュコーヒーなどのカクテルに使用していただいています。
今回は、retro Back Pageのマネージャーバーテンダーの大内爽平さんに、お店の歴史やバーにおけるコーヒーの役割、そしてDay & Coffeeとこれから一緒に取り組んでみたいことについてお話を伺いました。

8席のバーから始まった、40年以上続くお店
retro Back Pageが誕生したのは、1983年。東京ディズニーランドが開園した年と同じです。その前身となったのは「ホットライン」という小さなバーでした。
現在の仙台市中心部、いまのドン・キホーテの向かいあたりにあった半地下の店舗。カウンターはわずか8席で、提供していたのは水割りとハイボールだけだったそうです。

「父がホットラインというお店を8年くらいやっていたんです。そこがずっと流行っていて、もっと大きいお店をつくろうと。それも東北で一番のお店をつくろうということで、できたのがバックページです」
わずか8席のバーから、東北で一番のお店を目指して規模を広げる。その挑戦には、相当な覚悟があったことが想像できます。そうして誕生したretro Back Pageは、現在約110席を備えるレストランバーになりました。

お酒だけでなく食事もしっかりと提供し、宴会や貸切パーティー、ライブイベントなどにも対応しています。 
「どの席に座っても、景色が違うように」
それが、お店をつくるときに大切にしていた考え方だったそうです。
大きな空間でありながら、座る場所によって異なる景色が広がる。誰と訪れるか、どんな時間を過ごすかによって、お店の楽しみ方も変わっていきます。
店名の「Back Page」には、古いアルバムのページをめくり返すような意味が込められています。
開業から40年以上。現在は、爽平さんが二代目としてお店の歴史を受け継いでいます。

老若男女を問わず、誰もが楽しめる場所に
「たぶん、どのお店よりもうちが老若男女を問わないお店だと思います」
どんな人に来てもらいたいかを尋ねると、爽平さんはそう答えてくれました。

会社員の飲み会で利用する人もいれば、一杯のカクテルを楽しみに訪れる年配のお客さんもいる。食事を楽しむ人も、音楽を聴きに来る人もいる。バーというと、お酒に詳しい人が通う、少し入りにくい場所を想像するかもしれません。
けれど、retro Back Pageは、そうしたイメージだけでは語れないお店です。「本当にいろんな人が来るんです。サラリーマンの飲み会もあれば、一杯のカクテルを飲みに来るおじいちゃんもいる」
その間口の広さが、長くお店を続けてこられた理由のひとつなのかもしれません。一方で、これからのことを考えると、若い世代にももっと足を運んでもらいたいと話します。

「お店を循環させていくためには、若い子にもどんどん来てほしいですね」 40年以上続いてきたお店を、これからも続けていく。昔からのお客さんに親しまれながら、新しい世代にも利用してもらえる場所であり続けること。そのために、これまでのお店のあり方を大切にしながら、新しい取り組みにも挑戦しています。

カクテルに必要なのは、コーヒーらしい香り
retro Back Pageでは、Day & Coffeeが焙煎したコーヒー豆を、主にカクテルの材料として使用していただいています。エスプレッソマティーニやアイリッシュコーヒーなど、コーヒーとお酒を組み合わせたメニューです。
私たちが普段コーヒー豆を焙煎するときには、豆が持つ個性や甘さ、酸味、余韻などを考えながら、そのコーヒーを一杯の飲み物としてどうおいしく仕上げるかを考えています。けれど、バーでは少し事情が異なります。

「カクテルに必要なのって、コーヒー単体の美味しさじゃなくて、コーヒーらしい香りなんです」
爽平さんのこの言葉が、とても印象に残りました。もちろん、コーヒーそのものがおいしくなくてもいいという意味ではありません。

カクテルの場合、コーヒーはあくまで複数ある材料のひとつです。お酒やシロップ、クリームなど、ほかの材料と組み合わせたときに、どんな香りが残るのか。どのくらいの存在感が必要なのか。
コーヒーだけを飲んだときの評価と、カクテルの材料としての評価は、必ずしも一致しません。例えば、フルーティーな香りや繊細な酸味が魅力のコーヒーでも、ほかの材料と組み合わせると、その個性が感じにくくなることがあります。

反対に、深めに焙煎したコーヒーの香ばしさやしっかりとした味わいが、カクテル全体のバランスを整えることもあります。どんな飲み物をつくりたいのかによって適したコーヒーは変わるということです。

バーで使いやすいコーヒーとは
現在、retro Back Pageには、比較的深めに焙煎したコーヒー豆を卸しています。その理由について尋ねると、爽平さんは味わいだけでなく、実際の営業中のことも話してくれました。
「うちはコーヒー屋さんじゃないので、すごく集中してコーヒーを淹れられる環境ではないんです。カクテルをつくっている片わらで、コーヒーも淹れなきゃいけない」
バーでは、複数の注文が同時に入ることも珍しくありません。

その中で、一杯ずつコーヒーの抽出だけに集中することは難しい。
「ちょっと抽出時間が長くなっちゃったな、というときもあるんです。もちろん、そうならない方がいいのは分かっているんですけど、どうしようもないときもあるので」
だからこそ、多少条件が変わっても、カクテルの材料として求める味わいから大きく外れにくいものがいい。

「深煎りの方が、今のうちの使い方では融通が利くかなと思っています。どんなものにも合わせやすいし、コーヒーらしい香りも出しやすいので」
コーヒーショップでは、豆の個性を引き出すために抽出方法を細かく調整することがあります。けれど、すべてのお店が同じような設備や人員、時間を確保できるわけではありません。大切なのは、理想的な条件だけでおいしくなるコーヒーではなく、そのお店の営業環境の中で、無理なく使い続けられること。私たちにとっても、卸売を考えるうえで大切な視点です。

バリスタとバーテンダーが、技術を交換する夜
これからDay & Coffeeと一緒にやってみたいことを尋ねると、爽平さんからいくつものアイデアが出てきました。
「Day & Coffeeの人がバックページでコーヒーを淹れて、それを使って僕がカクテルをつくる夜があったら面白いですよね」
さらに、仙台のバーテンダーに向けたコーヒーのワークショップや、山形のバリスタに向けたカクテルのワークショップも開催してみたいと話します。

「バリスタもバーテンダーも、飲み物をつくるプロだと思うんです。でも、技術や考え方は結構違う。その垣根を越えて、意見交換できたら面白いですよね」
その違いについて、爽平さんは温度を例に挙げて話してくれました。
「バリスタは温度を高くして抽出する人たちで、僕たちは温度を下げて抽出するプロだと思っているんです」
コーヒーは、お湯を使って成分を引き出すことが多い飲み物です。一方、カクテルでは、氷を使って冷やしながら、加水や攪拌(かき混ぜること)によって味わいを整えていきます。もちろん、コーヒーにも冷たい抽出方法がありますし、カクテルにも温かいものがあります。それでも、日頃向き合っている温度や道具、技術には違いがあります。

「バリスタさんもバースプーンをきれいに使えた方がいいと思うし、シェイカーも振れた方がいい。逆に、バーテンダーもドリップくらいはできた方がいいと思うんです」
お互いに違う専門性を持っているからこそ、学べることがある。そして、その交流をプロ同士だけで終わらせず、お客さんにも見てもらいたいと話します。
専門的な技術に触れることが、新しい楽しみ方を知るきっかけになる。そうした取り組みを、今度はDay & Coffeeとも一緒にできたらと思っています。

コーヒーをきっかけに、バーを訪れる人が増えたら
爽平さんが考えているのは、バーテンダーとバリスタの交流だけではありません。コーヒーをきっかけに、普段バーに行かない人にも足を運んでもらえたらと話します。

「お酒はあんまり飲まないけど、コーヒーと合わせて楽しむなら面白いかも、という人もいると思うんです」
逆に、普段はコーヒーをあまり飲まない人が、カクテルをきっかけにその香りや味わいに興味を持つこともあるかもしれません。
コーヒーショップとバー。それぞれのお店には、普段から通っているお客さんがいます。けれど、そのお客さんが、必ずしももう一方のお店に足を運んでいるとは限りません。
一緒にイベントを開催することで、これまで接点のなかったお店や文化に出会うきっかけをつくることができる。
山形と仙台という、日常的に行き来できる距離にあることも、これからの取り組みを考えるうえで面白い条件だと思っています。コーヒーを卸すことは、商品の販路を増やすことだけではありません。それぞれのお店が持つ専門性や文化に触れ、そこから新しい取り組みを一緒に考えていくことでもあります。

次は、Day & Coffeeのバリスタがコーヒーを淹れ、大内さんがそのコーヒーでカクテルをつくる夜を。
仙台と山形を行き来しながら、コーヒーショップとバー、それぞれのお客さんが出会う機会をつくっていけたらと思います。

Interview & Text:追沼翼
写真提供:retro Back Page